2023.09.01
MAG溶接の基礎知識とロボット導入による自動化
アーク溶接のなかでも、MAG溶接はその高い強度ときれいな仕上がりから広く使用されています。本記事では、MAG溶接の基本的な知識や溶接を自動化する方法、ロボット導入に必要な設備や注意点について解説します。
■MAG溶接とは
MAG(Metal Active Gas)溶接は、ガスを用いたアーク溶接の一種で、主に鉄系材料の結合に利用されます。溶接トーチから送り出される溶接ワイヤが電極となり、ワイヤとワークの間にアークを発生させて溶融、接合します。金属が大気と触れないようガスを噴出しながら溶接しますが、シールドガスとして活性ガスを使用することからMAG溶接と呼ばれています。MAG溶接のシールドガスとしては、炭酸ガスや、アルゴンと炭酸ガスとの混合ガスなどが用いられます。
MAG溶接のメリットは、電極の溶着速度が速くワークに深く溶け込むため、強度が高いことです。また、スパッタの飛散が少ないため、仕上がりもきれいになります。ただし、活性ガスの配合成分がメーカーごとに異なるため、それに応じて溶接の条件を決める必要があります。風が強い場所ではシールドガスが吹き飛ばされてしまい、溶接品質が低下するというデメリットもあります。また、シールドガスに用いる炭酸ガスが化学反応を起こすため、アルミなどの非鉄金属には適しません。
■MAG溶接を自動化する方法
一般的なMAG溶接は、電極として長い溶接ワイヤを使用しており、ワイヤ送給装置から自動的に溶接トーチまで送られます。溶接トーチ自体の操作は作業者が手で行うため、「半自動溶接」と呼ばれています。ワイヤの送給だけでなく、溶接トーチの操作や溶接条件の制御も機械で自動化したものを「自動溶接」と呼び、自動溶接機や溶接ロボットを使用します。
半自動溶接はワイヤの送給を自動化しているものの、溶接トーチの操作は人手で行っているため、作業者の力量によって品質のばらつきが生じやすいことがデメリットです。一方で、自動溶接を用いると、一定の品質を維持しながら高速作業ができます。また作業者の労働時間を削減できるだけでなく、作業者の安全を脅かすスパッタやヒュームの発生が少なくなるため、より安全に溶接ができます。
ただし自動溶接機を用いた場合は、溶接面が直線もしくは直線に近い曲線に限られたり、溶接時の姿勢が下向きや水平、横向きに限られたりなどの制約があります。一方、協働ロボットを用いた自動溶接では溶接形状や姿勢に関する制約がなくなるため、より柔軟な溶接作業が可能です。
■協働ロボットによるMAG溶接の自動化
協働ロボットを用いたMAG溶接に必要な設備として、協働ロボット本体と制御装置、ティーチングペンダント、溶接電源、ワイヤ送給装置、溶接トーチ、ロボット用の架台などが挙げられます。溶接電源やワイヤ送給装置、溶接トーチはMAG溶接に対応したものを選定しなければなりません。
ロボットで溶接作業を行うには、事前に作業手順をティーチングする必要があります。溶接開始点と終了点、溶接トーチの軌道を指示し、周辺の部材に干渉しないかなど確認します。また実際に溶接をしながら、溶接トーチの角度やロボットを動かす速度、電源の設定などの条件を確認します。MAG溶接に用いられるシールドガスの成分に応じて、最適な溶接条件が変わるためご注意ください。
協働ロボットはティーチング作業を補助する機能が備わっていますが、精度の高い溶接作業をするには何度も試行錯誤する必要があるでしょう。ただ、一度設定すれば同じ品質の溶接作業を連続的に実施できるようになります。MAG溶接の自動化を考えている方は、協働ロボットの活用を検討してはいかがでしょうか。
■アーク溶接比較
種類 | MAG溶接 | MIG溶接 | TIG溶接 |
---|---|---|---|
シールドガス | 活性ガス (アルゴン+炭酸ガスなど) |
不活性ガス (アルゴンなど) |
不活性ガス (アルゴンなど) |
電極 | 溶接ワイヤ | 溶接ワイヤ | タングステン 電極棒 |
溶接材質 | 鉄鋼 | 非鉄金属可 (アルミなど) |
非鉄金属可 (アルミなど) |
特徴 | MIG溶接より低コスト | MAG溶接より溶け込みが浅い | 溶融電極式より仕上がりが美しい |